丸い地球の模様替え

Round Earth Redecoration

《丸い地球の模様替え》は、不自然な形をした建具や畳、家具などで構成された立体作品である。観客はハンドルを回し、宙に浮くこたつを回転させたり、三輪車に乗って荷物を牽引したり、キャスターのついた建具を動かすことができる。室内の家具の配置を移動することを「模様替え」と言うが、本作では観客の手によって、作品が動きまわり、空間を構成する要素が常に変化し続けるのである。
和室の本質を覆すことをテーマとして制作を行った。例えば、建具は鴨居と敷居と呼ばれる溝の中に収まっており、敷居を滑らせることで扉の開閉ができるのだが、敷居と鴨居に収めることを無くし、自由自在に動くことができれば、建具は見たことのない動きをするのかもしれないと考えた。また、畳も住居空間ではそれぞれの部屋に合わせて、隙間なく床にぴったりと埋め込まれているが、測ることを無くし、更には角のない形に出来ないかと考えた。このような発想のもと、重力を無視した宙に浮くこたつ、角の無い丸い畳、変形した襖…など、小作品の展開を行った。

円形の畳を制作する上で、特殊畳を製造している岐阜県の「株式会社 国枝」を訪問し、一緒に工場で作品制作を行いたいことを提案した。畳職人と制作を行うなかで、円形の畳を作るために、ひび割れが起きないよう目の細かい和紙を使用した畳表を使用することや、綺麗に曲げるために温かい水蒸気を畳表に吹き付けることなど、テクニカル面での新しい発見が沢山あり、有意義な時間を過ごせた。また、製造業の面では、近年和室が居住空間において必要不可欠なものではなくなっていると伺った。株式会社国枝の国枝幹生社長は「従来の製造方法にとらわれない、新たな発想や技術で畳作りをしたい」と語る。実際に、国枝さんの元へ来ている仕事内容も、住宅空間の畳替えがメインではなく、非日常的な空間作りとして、畳を敷いてベッドを配置したり、高級ホテルの大浴場で耐水性のある畳を敷いたり、ハート型や動物の肉球など自由な形の置き畳を製造したりなど、独自の変形畳製造の技術を活かした空間づくりを行っていることを知った。

このような職人のみなさまとの関わり合いを元に、和室をとりまく住宅業界の現状と未来を垣間見ることができた。

一方で私自身は、身に付けた技術を職人として活用するわけでも、和室の完全再現をしたりするのではなく、それらを表現手段としたい思いが明確になった。そういった経緯から、修了制作では和室空間を構成する建具や畳、家具や雑貨などの機能を大きく改変し、新しい空間づくりが出来ないかと試みた。

本作では、鑑賞者が自由に動かすことができ、回転したり、上下左右に動いたり、不規則な動きをしたりする。作品の中央に設置する、「宙に浮くこたつと丸畳」は、複数人がこの場所に座ることができ、座る全員の顔が見えることから、気持ちをフラットな状態にして、柔らかなコミュニケーションを育むことができるだろう。《丸い地球の模様替。》は老若男女、誰でも体験してほしいと思っている。展示会場にたまたま居合わせた人々が、この作品を通してどんな化学反応が起こり、どのようにコミュニケーションをするのか、興味深い。そして、修了制作展では鑑賞者の様子を観察するなかで、本作にどのような可能性を秘めているのかを探究していきたい。今後も《丸い地球の模様替え》は、鑑賞者の動きや状況にあわせて、アップデートし続けていく予定だ。

修了作品《丸い地球の模様替え》とアートを介したコミュニケーションの可能性
(日本語・2023年2月)

第 71回 東京藝術大学 卒業修了作品展
東京藝術大学 中央棟1F
サイズ可変
畳、鉄、木材、布、三輪車、陶器、和紙
協賛:株式会社国枝


丸い地球の模様替え 仲町の家

第71回 東京藝術大学 卒業・修了作品展での発表を経て、北千住の日本家屋・仲町の家へ作品展示を実施した。見慣れた日本家屋の空間に、「和室にあるようでないものたち」が置かれることでのズレや違和感を楽しむような展示を試みた。

丸い地球の模様替え 北千住
アートアクセスあだち 仲町の家
2023年


丸い地球の模様替え 北千住BUoY

2Fは元ボウリング場、地下は元銭湯という歴史を持つ北千住BUoYにて、丸い地球の模様替えを展示。

家劇場の一周忌 おわりの遊園
北千住BUoY
主催:家劇場 むかしむかし化計画
2024年